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こじらせおたくにぶっ刺さる朗読劇「朝彦と夜彦 1987」

こんにちは。

初演を観た友人に「おまえは絶対好きだろう」と言われて観に行った朗読劇「朝彦と夜彦 1987」。

 

この作品、わたしのようなこじらせおたくにあまりにも刺さりまくる作品だったのですわ……

 

ニコイチ、シンメ、表裏一体、共依存といったワードが好きなおたくはぜひとも!!!もし再再演が叶ったらみて!!ほんとに!!!!って感じ


重要なネタバレはせずに感想を述べるので、もし、またこの朗読劇が上演される幸福な機会が訪れるなら、ぜひみてもらえると嬉しいです。

 

登場人物は山田朝彦と山田夜彦の2人だけ(この2人は兄弟でも、親戚でもない)。

田舎の進学校(男子校!!)で出会った、名前が一文字だけ違う赤の他人で、親友の、1987年、高校2年生の夏に起こった出来事を、30歳の高校教師となった山田朝彦が回想する話。

 

登場人物は2人なので、朗読劇の出演者も2名だけ。今回は2名の役者が4(+1)チームに分かれて演じられていました。

わたしが見たのはAチーム(朝彦:谷口賢志さん、夜彦:窪寺昭さん)と、Cチーム(朝彦:桑野晃輔くん、夜彦:近藤頌利くん)の2組。

 

どちらもよかったんですが、好きなのはC。

 

Cチームの桑野朝彦・近藤夜彦がつらくてつらくて……

Cから見たこともたぶん関係してるんでしょうが、よくできた戯曲の持つ脚本としての面白さと、観客のすぐそばの舞台上で交わされる、2人の役者の圧倒的なエネルギー。そして、「生きることとは何か」という問いかけが、ガンガン刺さって棘のように抜けなくなった感じ。

 

これが不思議なことに、両チームとも全く同じ脚本のはずなのに、役者が違うだけで全然受け止め方が変わるというか…

 

特に、ラストシーン付近で、詳しく結末が言及されないエピソードがあるのですが、ほんとに見る組み合わせ、もしかして同じ組み合わせでもその回によって、ラストシーンの解釈がどうとでも取れるようになっているので、これはもしかしたら朗読だからこそ活きてくる戯曲なのかもしれません。

 

どうしようもないトラウマと眠れぬ夜を抱えて苦悩する夜彦と、それに対峙する"平凡"な朝彦。

Aチームは、お手本の様な朗読で、暗闇にいる夜彦を光の元へ引っ張り上げる朝彦…に感じたんですが、Cチームは本当に劇薬の様な…、、負のパワーを持った夜彦に引きずられてしまう朝彦なんじゃないかと感じてしまって。

 

Cチームは特に、17歳の朝彦と30歳の朝彦では、本当に別人のように違うんですよね。

明るく世話焼きな、あまりにも普通の17歳の朝彦が、30歳になったときはくたびれている。それを声色一つで表現できる桑野くんの巧さ。桑野くんってほんとに「普通」の朝彦が残酷なくらいうまい。

近藤夜彦は圧が強くて浮いてる。光属性でパリピな近藤頌利が演じる夜彦の躁状態は、めちゃくちゃ元気で逆に怖い…笑。負の感情を表現する時も、変にエネルギーがあるから、躁鬱に凄く差があって、喜怒哀楽が激しい夜彦の、烈しさが特に強調されるような演技だなって思った。

なんというか、「助けてほしい」と訴えてくる力さえも苛烈なんだよな。脚本を書いた小説家の菅野先生が「最早ホラー」と思わず言ってしまうくらいに。

 

あまりにも「普通」な朝彦と、あまりにもホラーで烈しい夜彦だったから、この朝彦は絶対にこの夜彦のことを本質的に理解できないんだろうなって感じてしまって、、

夜彦は、名前が一字違うだけの運命的な存在である朝彦に、己の苦悩を理解して、助けてもらいたい。でも、あまりにも普通な朝彦は、夜彦のつらさが想像できて、同情することはできても、共感はできないんじゃないかなとか。それってこの話においてあまりにも残酷だよなって。

 

でもそんな、普通に明るい少年だった朝彦が30歳であんなにくたびれてるのって…どうしてなんだよ…ってつい思ってしまって。

それは、夜彦を救えなかった後悔からなんじゃないか?とか。とにかくこの朝彦で、この夜彦だからこそのしんどさつらさっていうのが確実にある、絶妙なペアになってたと思いますね。

 

今回、初演から4年ぶりの再演ということで…。続投キャストはこのCチーム桑野朝彦だったらしいですが、演者が変われば演技も変わるということで、桑野くんの演じる朝彦も初演時とはまたちがうものになってたようです。

 

ほんとは爽やかだったと噂のBチームもDチームも見てみたかったというか、演者の数だけ、そして組み合わせによって何通りも感じ方が変わってくる戯曲だから、次は4年ごと言わずに、定期的に上演してほしいなぁと思うのでした。そうしたら、また見に行ってしまうだろうし、その時にまたいろんな方にしんどいを浴びてほしいし、この戯曲の良さを体験する人が増えてほしいなって切実に思います。